先日、山下達郎がラジオで、
「シンガーソングライターとして長く続けられている秘訣は何かあるのでしょうか?」
というリスナーからの質問に対して答えていました。
「私は交通事故(筆者注:つまり「たまたま」)でミュージシャンになった人間です」
と謙遜しながら、こう続けます。(意訳ですが)
「私よりも有能で、より優れた人が世の中にはたくさん埋もれています。私がプロミュージシャンとしてこうして表立って活動できていることは、自分の能力というよりは、周りの環境や人間関係といった部分。つまり『運』の要素もあったと思います。人間関係や調和といったことを重んじたいなと、そう思う今日このごろであります」
TOKYO FM 山下達郎の楽天カード サンデーソングブック
山下達郎の歌唱力や作曲力がずば抜けていることは火を見るよりも明らかなんですが、「自分にどれだけ能力があったとしても、それだけでは不十分だ」というスタンスが見て取れます。
彼の言う「運」という言葉がどのように定義されているのかにもよりますが、これって割とどのような業界にでも言えることなんじゃないかなと思ったりもしました。
これだけだと「能力だけじゃだめ、まわりの協力とか運が必要なんだよ」で終わるんですが…
実は最近、たまたまなんですが、そんな山下達郎に関するもう1つのエピソードを見つけました。
私事なんですが、趣味で中古ショップでレコードやフィギュアを漁るのが日課になっています。
複数サイトをまたぎながら、市場の流れをなんとなく眺めたりしているのですが、その中で1つ、異彩をはなった商品を見つけました。
自主制作盤のレコード。
価格、なんと132万円。
「add some music to your day」というこのレコード、製作者は何を隠そう、若かりし日の山下達郎とそのバンドメンバーです。
レコードの存在すら知らなかった私は、詳細を調べてみました。
1972年に制作されたこのレコードは、中学校時代にアマチュアバンドを組んだ山下達郎とその仲間の並木進を中心に、「活動を何か形にして残したい」という思いから、完全自費で自主制作したカバーアルバムだそうです。
中学時代に組んだアマチュアバンドは、高校進学後に進路や思想の違いでオリジナルメンバーは一時離散。
それでも山下達郎は音楽に没頭し、ひとりで黙々と音楽活動をしていたらしいのですが、「大勢で演奏する魅力」が忘れられず、メンバー入れ代わり立ち代わりで活動を続けていた並木進のもとに再合流。
そんな彼らの卒業制作的な位置づけで制作されたのが、この「add some music to your day」というアルバムだといいます。
家にあったオルガンやゴミ捨て場のピアノ、安いギターやベースで収録されたカバーアルバムです。
決して満足の行くクオリティではなかったそうです。
約13万円の費用をかけてプレスされたレコードが100枚。
定価ではほとんど売れず、すべてタダ同然で人にあげてしまったといいます。
山下達郎は、このアルバム制作をきっかけにたくさんの人と知り合い、新たな人間関係が生まれる運びとなりました。
それが、昨今の日本音楽史を語る上で外せない「シュガー・ベイブ」の結成、そしてポップス界の重鎮である大瀧詠一によるプロデュース、ナイアガラ・レーベルからのデビューへとつながる訳です。
山下達郎は、
「自分がプロのミュージシャンになるすべてのきっかけは、このアルバムを作ったことで生まれたといえる」
と。
そして、
「はっきりと目に見える形として具体的に提示しない限り、他人は自分に対して注意をはらってくれないのだということを、この経験から学んだ」
といいます。(ってwikipediaに書かれてた)
まあ、これだけ重要な位置づけのアルバムだからこそ今、132万円という価格がつけられてるのだなと納得したんですが、衝撃だったのはそこではなく。
「活動を形にして提示しないと他人は自分に対して注意を払ってくれない」という、この部分です。
目の前にいるお客さんに商品やサービスを提供して、満足いただく。それで経済活動を続けることは可能ですが、広がりはありません。
どこで聴いた話なのかはちょっと忘れてしまったんですが、人生のステージを引き上げるためには、誰かからのフックアップが不可欠である…という教訓があります。
そしてよくよく考えたら、誰かからのフックアップを得るためには、自分の活動をわかりやすい形にして提示しておかないきゃだよな…と思ったわけです。
誰かが「この人すごいですよ」って教えてくれても、その人のすごさが客観的にわかるものがないと、興味持てないですからね。
形は何でもいいと思うんです。ブログでも、youtubeでも、Podcastでも。
そういった形で残した、自分の活動の集大成が、山下達郎の言う「運」に乗っかることで、いい未来が待ってるんじゃないかなとか、そういったことを考えました。
ちなみにこの「運」ですが…
ある程度であれば、それなりにコントロールする手法もいくつかあったりするらしいです。怪しいものではなく、脳科学とか心理学の側面から。
このあたりについては、また別の機会に言及できたらいいなと思います。